木曽檜に会いに行こう!
この一言で決まった初めての木曽視察ツアー。海へ行こう、山へ行こうと誘われたことはありますが、「木を観に行こう」と言われたのは、そこそこ生きておりますが、初めてのことでした。
向かった先は、長野県の南西部、木曽郡上松(あげまつ)町にある「赤沢自然休養林」。
「自然」と「休養」、リラックスムード溢れる単語が2つも並んでいるところから、「よほど安らぐところに違いない」というイメージしか描けないまま、目的地に到着しました。
車を降りると、目の前には想像以上に整備された広大な土地が広がっておりました。美しい木々があり、美しいせせらぎがあり・・・まだ駐車場です。一歩も森に入ってない状態なのに、既に「とっても気持ち良い」のです。
なんだここは?! 一体、なんなんだ・・・
この時はまだ知らなかったのですが、あとで調べると「自然休養林」とは林野庁が国有林の多目的利用のために作った施設であることがわかりました。
森は実にいろんな「顔」を持っています。様々な生物のすみかであり、温暖化から地球を守り、土砂災害を防ぎ、水源を守る。そして私たち人間を癒し、身体を動かすフィールドとなる・・・まさに命をつなぐための万能選手である森を、もっと身近に感じて〝多目的〟に活用して欲しい。そのために「森と人がもっと仲良くなれる場」としての役割を担ったのが、自然休養林なのだと思います。
そしてここ、赤沢の森は、1969年(昭和44年)に「全国初」の自然休養林に指定されました。
赤沢の森の〝全国初〟はもうひとつあります。それは「森林浴発祥の地」であること。これも自然休養林としての取り組みのひとつで、林野庁が提唱する森林浴のイベントを全国で初めて開催したことから、このように呼ばれるようになりました。
森林浴については、また別の機会に熱く語りたいと思いますが、赤沢の森を訪れることは「人と森の関係」を見直す大きなきっかけになると感じます。都市部から森が消えてもうずいぶんと経ってしまいましたが、300年を超える悠久の時を超えてなお生きる木曽檜が、人生100年時代にシフトしたばかりの私たち人間に何を思い、何をもたらしてくれるのか・・・
いずれにせよ、ここは木曽檜と現代人を「つなぐ」特別な場所なのです。
赤沢自然休養林のシンボルとも言えるのが、森林鉄道です。
最初にビックリさせられたのが、駐車場から駅へと向かう階段でした。一歩足を置いた瞬間に「ふわっ」という奇妙な感覚。足元を見ると、階段、そして歩道には木材のチップが敷き詰められているではありませんか。
ガイドさんに尋ねると、これは地元の子どもたちが中心となって、手作業で敷いてくれたとのこと。木曽檜の森へと続く第一歩は、地元の人たちの愛に溢れておりました。
森林鉄道は、木曽一帯を走る日本最大規模の森林鉄道として、1916年(大正5年)に完成しました。伐採したたくさんの木材、砂、水、生活用品など、様々なものを運んでいた、まさに木曽谷に暮らす人のライフラインでした。
しかし、時代の流れには抗えず、1975年(昭和50年)に廃止されてしまいます。その当時の様子や貴重な品々は、乗車駅に併設されている森林鉄道記念館に展示されているので、興味のある方はどうぞ。鉄道ファンならずとも、なかなかの見応えだと思います。
そして12年の時を経て、森林鉄道は「赤沢森林鉄道」として見事復活します。
およそ400Kmあったと言われる線路の2.2Kmを復元し、1987年(昭和62年)に第二の人生をスタートしました。今では森を訪れるたくさんの人を乗せて、往復運行しています。
それでは、ご覧いただきましょう。ほんのちょっとで恐縮ですが、乗車気分を味わっていただけたらと思います。運行中に流れるアナウンスと、列車のガタンゴトン音とのバランスも、お楽しみいただけるかと思います。
実際には出発地点の「森林鉄道記念館」から終点の「丸山渡停車場」まで、約25分のプチ旅行。でも、両サイドに広がる美しい景色に魅了されているうちに、終点まであっという間です。赤沢の森には8つのコースが用意されていて、中には森林鉄道に乗らないコースがあるのですが、初めてだったらぜひ乗っていただきたいと思います。
さて、ここからがいよいよ本番。徒歩で木曽檜の森を歩きます。
今回は見所たっぷりの「冷沢(つめたざわ)コース」+「駒鳥コース」を選択しました。
冷沢コースにある冷沢峠の天然木曽檜は、それはそれは見事だと言われていますし、もうひとつの駒鳥コースには、昭和60年の伊勢の神宮御神木伐採跡地が、間近に見られるというのですから 、これはもうたまりません。
高まります。ものすごく高まります。
それでは高まる私たちとともに、もう少し先まで進んでみようではありませんか。
<つづく>